カルシウムがわたしたちの体の骨を作る大切な元素であることはよく知られています。子どもの頃は「カルシウムをとりなさい!」と言われて、牛乳や小魚を食べさせられます。また、たくさん子供を生んだ女性は子供にカルシウムをもっていかれるので、晩年に「骨粗鬆症」などのカルシウムの不足が原因する病気にかかることも知られています。もちろん、人間の体は複雑ですから、骨粗鬆症も女性ホルモンの分泌との関係もあり、単にカルシウムの摂取ということで整理できるほど単純ではありませんが、体にとって、カルシウムが大切であること� �間違いありません。
東ヨーロッパの旧ユーゴスラビアには地方によってカルシウムを多くとるところと、ほとんどカルシウム分をとらない地方があります。そこで、ユーゴスラビアの人たちの調査でカルシウムの影響を調べた例があります。図はマトコヴィッチ博士が女性の大腿骨頸部骨折、つまり「足の付け根の骨が骨折する」頻度を調べた結果をまとめたものです。
それによると、「低カルシウム地方」の七○才以上の女性に大腿骨頸部骨折が多いことという結果がえられ、カルシウムを多くとる地方と比較しますと、七○才で約三倍、七十五才で五倍も骨折の危険性が高まっています。いまさらながらカルシウムが人間にとって大切であることが分かります。
カルシウムの不足を補うにはカルシウムを多く含む食事をするということになりますが、それでは不十分です。最初に宇宙飛行士の体の変化について書きましたが、わたしたちの体は環境に順応する能力が高いのですが、カルシウムは特に生活の仕方に影響をうけます。
代謝低体温
アメリカ・フィラデルフィアでバークヘッド博士が、兵士を実験台にしてある研究を行っています。まず、兵士を三つの班に分けて、第一のグループは一日中何にもしないで寝ているばかりのグループ。第二のグループは一日中、座ったままの兵士。そして第三のグループは一日三時間以上、立っている兵士としました。そして、ずっと一つのグループに所属している兵士と、ときどき、グループを変える、つまり、それまで「寝るグループ」にいた兵士を「立つグループ」に編入させたのです。実験の期間は全部で六三日。生活する上での環境、たとえば食事、気温、そしてストレスなどはできるだけそれぞれのグループで差のでないように配慮したのは当然のことです。
実験に参加している兵士の尿を毎日,採取し、尿中の「窒素」と「カルシウム」を測定しました。尿酸や尿素という「尿」のつく名前を持っている化合物は主に窒素でできています。つまり尿中の窒素の量を測定することによって腎臓の機能や実験台になった人の全身状態がおかしくなっていないか見当をつけることができるからです。そして、それを参考にしながら尿中のカルシウムの量を見る計画を組んだのです。
さて、実験結果によりますと、まず、「一日中、寝てばかりいるグループ」も「三時間以上、立っているグループ」も兵士の尿に含まれる窒素の量には変化がありませんでした。ところが、尿中のカルシウムの量の方はこの二つのグループの兵士で大きく違っていました。一日三時間以上立っているグループに 属する兵士の尿のなかにはカルシウムが少なく、一日に約二○○㍉㌘程度でしたが、一日中、寝てばかりいる兵士の尿中のカルシウムはちょうど二倍の四○○㍉㌘と高い値を示したのです。
つまり、一日中寝ていると尿からかなりのカルシウムが逃げているという結果です。もちろん、立っているグループと寝てばかりいるグループのどちらも食事は同じですから、体に入るカルシウムは同じ。結局、出る方だけ違うのですから、これはゆゆしいことです。
この理由は次のように推定されます。
嚢胞性座瘡とB5
寝てばかりいる兵士は、足の骨に負担がかからないので体が「カルシウムはいらないのだな」とおもって、尿から体の外にカルシウムを出してしまうのだと考えられます。これに対して一日、三時間以上立っている人の場合は足の骨や背骨に負担がかかるので、体が「カルシウムが必要だ」と思い、カルシウムの流出を防ごうとしているのです。通常の食事をとっている場合でも、一日に約二○○㍉㌘のカルシウムが尿の中に含まれて流出するのですが、それなら骨は痛みません。人間は活発に活動をしているので、毎日、ある程度のカルシウムを損失し、それを補給しつつ生きているのです。「補給しながら排泄する」というのは生きている証(あかし)であり、ほかの� ��養分と同じです。
毎日、二○○㍉㌘のカルシウムが尿から流出する正常な人の場合には骨が太くも細くもならないのですが、寝てばかりいると一日四○○㍉㌘が流出するのですから、差し引き二○○㍉㌘分だけ骨が細くなっていることを意味しています。
ゾッとする結果ですが、この実験はさらに興味ある結果を出しています。
まず、「立っているグループ」を、さらに一時間だけ立っている兵士、二時間立っている兵士、三時間立たされる兵士、そして三時間以上、立っている兵士と、立っている時間が違うグループを作ってカルシウムの流出を測定しました。そうすると、立つ時間に比例して長いほど尿からカルシウムが流出しないことがわかりました。さらに、三時間以上の場合には、いくら長く立っていて� �カルシウムの流失には変化はありませんでした。
この結果から、「人間は一日三時間以上立っていると、わたしたちの体は骨が必要であることがわかり、カルシウムをできるだけ体内にためるように心がける」ということが分かりました。確かに、わたしたちの感覚でも足を使わないと少しずつ脚が弱くなることを経験しています。その意味ではこの実験結果は納得できますが、普通は脚を使わないと脚の筋肉が弱ると思いがちですが、「骨まで」細くなるのです。
不安障害の状態のフォーラム
また、この実験では「寝る」「座る」「立つ」の三つの姿勢について調べていますが、「座る」という姿勢は「寝る」場合とほとんど同じ結果が得られています。つまり、一日中、座っている人の尿中のカルシウム濃度は一日中寝ている兵士とほとんど同じだったのです。おそらく、「座る」と言う姿勢では脚の骨には負担がかからないので、わたしたちの体は寝ている時と同じように「骨はあまりいらないのだな」と思うのでしょう。
さらに、このバークヘッド博士の実験ではわたしたちの生活に役立つ事実も明らかにされています。
次の図は一日中、三時間以上、立たされていた兵士を、ある日から「寝るグループ」に編入させ、その間の尿の変 化を測定したものです。図の上のグラフは窒素の量を示していますが、おおよそ一二グラムでグループが変わっても変化がないことが分かります。それに対して、下のグラフにはカルシウムの量が示されています。一日三時間以上立っているグループにいたときにはカルシウムの量が少なかったのに、一日中寝ているグループに編入されると、すぐカルシウムの量が倍に増えています。さらに、この兵士を再び「立つグループ」に戻すと、カルシウムの量も戻っているのです。
つまり、人間は一日三時間以上立っていると、体が「骨が必要だ」と思うのですが、一日でも寝てばかりいると「もう骨はいらない」と判断するのです。人生八○年も生きるのですから、もう少しゆっくり判断して欲しいのですが、現実にはたった一日で判断してしまうのです。
いつも運動することに心がけている人でも日曜日にはなかなか布団からでられず、やっと昼ごろ起きだしてきても、結局、一日中、ソファに座ってテレビを見ていたという経験があるでしょう。今週はずいぶん働いたし運動したのだから日曜ぐらいゆっくりしようかという気分ですが、そうすると日曜日の晩にもなると、尿中のカルシウム濃度は少しずつ上がってくるのです。週休二日になって土曜日から休み、月曜日に勤務に出ても、その日は会議、次� ��火曜日も書類作りに忙しくて一日パソコンを打っていたと言うことになると、火曜日にはかなりのカルシウムを損失していることでしょう。
この場合は人間の体は「即断即決」なのです。
宇宙飛行士の時には体は変わらないという例を示し、ここでは体は毎日変わると言う例を示しました。一見、矛盾したように見えますが、決して矛盾してはいません。人間の体は変わりませんし、体にとって、なにがよいことか、なにが悪いことかということも人間の一生の時間のような短い時間では変わらないのです。
一方、人間の体は「変わらないものを保つための努力」を求めます。そしてその努力を怠るとたちまち、人間のこれまでの経験でDNAの中に書き込まれたものが崩壊すると言うことなのです。それは毎日、� �養のバランスを取って食事をしなければならないとか、毎日適度な運動が必要だといったことと同じです。
つまり、人間の体は次のように考えられるのでしょう。
太古のむかし、約一万年前までの人間の経験が現在のわたしたちの体と感覚、感情を作り上げていること、それに反する生活や行動はわたしたちを不安にし、不快にすること、そして、毎日の生活は約一万年前までの人間の生活を取り入れないと、崩壊してしまう。
そこで、もう一度、バークヘッド博士の実験結果を整理しますと、①一日三時間以上立っていればカルシウムが体外に出る量は少ない、②寝ていたら骨のカルシウムは体から流れ出る、③立っている時間が三時間以内なら立っている時間に応じて流れ出る、そして④カルシウムの損失という点からみると「座る」のと「寝る」のは同じ、というです。
これが一万年前にできたわたしたちの体が要求していることでもあり、その当時の生活のパターンでもありました。
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