2012年4月2日月曜日

境界性人格障害とうつ病のための『デボルデ』/FAQ


Q1:人格障害ってなんですか? A1:その個体(個人)に特徴的で一貫性のある認知、感情、行動のあり方である人格が、大きく偏り固定化したために非適応になっている状態を人格障害と呼びます。患者は著しい偏りのために、適応的な判断や行動ができず、感情を抑制できず、その結果、自分や周囲の人たちが苦しむようになってしまいます。こうした人格の偏りは通常青年期後期もしくは成人期前期に次第にあきらかになり、それが持続的、恒常的に続くことになります。その点が基本的にはエピソ−ド的に(挿話的に)起こるとされている統合失調症(精神分裂病)、感情障害、不安障害などの精神科疾患と異なるところです。なお、人格障害は人格というプライベートな領域と接しているデリケートな部分がふくまれているため、人格障害の扱いは医� ��倫理学的問題の一つに数えられることがあります。なお、「人格」というものがある程度その形を確立させるのは、精神医学的には18歳以上だとされています。ちなみに、精神疾患の診断と統計マニュアル第4版テキスト修正版DSM-IV-TR日本語版2003年8月新訂版から邦訳が「人格障害」から「パーソナリティ障害」へと修正されました。 Q2:人格障害は病気ですか? A2:現在日本、および世界中の精神科医が診断のバイブルにしているものに、アメリカ精神医学会が作成している「精神疾患の診断統計マニュアル DSM-IV」と呼ばれるものがあります。このマニュアルでは「多軸システム」と呼ばれる診断方式が採用されています。第1軸(Axis-I)は臨床疾患、臨床的関与の対象となることのある他の状態、第2軸(Axis-II)は人格障害、精神遅滞、第3軸は一般身体疾患、第4軸は心理社会的および環境的問題、第5軸は機能の全体的評価となっており、境界性人格障害つまりボーダーは、第2軸に入っています。第1軸は簡単にいうと「精神的な病気と症状」ということですから、このバイブルでは境界性人格障害は病気ではない、ということになっています。ちなみに、気分障害、不安障害、身体表現性障害、摂食障害、睡眠障害、などはすべて第1軸にカテゴライズされている、つまりれっきとした病気ということになっています。2002年� ��夏から統合失調症という名称に変更されることになった精神分裂病も第1軸です。 Q3:自分は境界性人格障害だと思うのですがどうすればいいのですか? A3:精神科に「私は境界例だと思います」と受診する人の多くが実際に境界性人格障害であるという報告があります。精神科は、会社帰りのOLやビジネスマン、主婦や学生が気軽に通院しており、決して恐くて冷たいところではありません。気になるようでしたら、一度気軽に精神科の門を叩かれることをおすすめします。精神科というものについてより詳しく知りたい方はこちらへ。境界性人格障害だと診断されれば、適切な治療方針を立ててくれるはずです。 Q4:家族や知人が境界性人格障害だと思うのですがどうすればいいのですか?

A4:ご本人に病識(自分がなにかしらの症状を持っているという意識)がない場合、精神科に連れていくのは現実的にはかなり難しいといえます。本人に治療意欲があるかないかで治療成果が左右されるという点ではアルコール依存症などと似ているという見解があります。境界性人格障害の周囲の方は何かと振り回されたり、感情的に巻き込まれたりすることが多いので、まずは周囲の方自身が自分の生活ペースを守る姿勢を持つこと、こころの余裕と冷静さと安定感を持つことが大切です。周囲が不安定だとその不安定さが患者さんに数倍になって伝染してしまうからです。またご自身のことを大切にしてください。周囲が自分の生活や自分の世界を大切にできないなら、患者さんがそうなってくれる訳がありませ� �。もし唯一ご本人を精神科に連れていくもしくは通院を勧めるきっかけがあるとしたら、性格的なことに関してではなく、眠れない、不安でしょうがないなど「症状」として自分で自覚できる、病院にいって診てもらってもいいかなと思われるような点を指摘することです。しかしながら、実際はなかなか難しいですし、無理に通院を勧めることはかえってその後の治療をすすめる上で逆効果となることもあります。ご本人の自覚と治療意欲が何よりも重要だからです。対応に関してですが、まずは、ご本人と適切な距離をとることを心掛けることが肝心です。「つかず離れず、少し近め」が目安になると言われています。その上で、場合によっては、「私のこの対応は、あなたにとって厳しすぎるでしょうか?」「こ� ��ようなことをしてあげると、かえってあなたの自立心を損なってしまうのではないかと心配になるけど、どうですか?」「あなたを援助しようと思ってこういうことを言いましたが、どう感じましたか?」などと直接本人に正直に尋ねてみることも有効であるようです。あまり釈然とした返答がないかもしれませんが、問いかけはコミュニケーションの基本です。ただし日本語では、「どうして〜したの?」などと「どうして」「なんで」を多用すると責めているように聞こえるのでそれだけは慎重に言葉を選んだほうがいいかもしれません。また、周囲の方が接し方や態度を変えていくことが、ご本人がそれに呼応する形で性格や行動パターンなどを変えていくことにつながることがあります、ただしこの場合、支離滅裂なことをして� �ると患者さん本人も混乱し、不安になってしまいますので、一貫した態度を取り続けることが肝心です。なお、ご家族や職場など常にその方と接していなければならない状況にある場合、ご家族や同僚、上司などの方が精神科に出向き、代理診察を受け、適切な対処の仕方などのアドバイスを受けられることをお勧めします。ただし、家族で精神科にかかるとき避けなければならないことは、無用な犯人探しをしてしまうことです。原因が誰のせいであるかは重要ではありません。目的は患者さん本人の症状や行動の改善と家庭環境の安定化です。これは家族療法の基本なので、よくこころに留めておいてください。精神科にどうしてもかかりづらいということであれば、同僚や親戚などに話しを聞いてもらうというこ� ��でも構わないと思います。人格障害の治療に関しては、二者関係に第三者の視点が加わることは非常に重要です。保健所などにいらっしゃる精神保健福祉士(PSW)の方に相談に乗ってもらうというのもひとつの方法です。その意味でも、自分一人で辛い思いを抱え込まないことをお勧めします。精神保健福祉士(PSW)に関して詳しいことをお知りになりたい方はこちらへどうぞ。

Q5:境界性人格障害は治るのですか?

A5:治療は長期にわたることが多いのです(一般的に5年以上といわれています)が、多くは障害の程度が軽くなったり、治ったりすると言われています。ただしこれには「自殺さえしなければ」「治療からドロップアウトしなければ」という条件がつきます。とくに患者自身が治療過程での様々な葛藤や困難に直面しても忍耐強くよくなろうと心掛けることが予後の良し悪しを左右すると言えます。ニューヨーク州立病院における205人の境界性人格障害患者に対する10年以上の経過研究では、自殺例が9%程度あるものの、約3分の2の患者が比較的良好な社会適応をしているという報告があります。その中には、心理学者または臨床心理士(10名)、弁護士(6名)、医師(5名)となった患者もいたということです。また我が国でも 町沢静夫のデータによると1年で30%、5、6年で60%の境界性人格障害患者が改善を示し、社会生活をおくっていると報告されています。いずれも、歳をとるにつれて、つまり加齢によってよくなるケースが多いということです。したがって、境界性人格障害は治らないというのは大きな誤りです。その他の予後調査などの結果を総合すると、1)症状面では長期経過(10年以上)の中で軽症化する。2)うつ病の診断基準を満たす者が多く、分裂病に移行する例はない。分裂病型人格障害に分裂病の発病が多少とも認められる。3)長期経過の中での社会適応は比較的よろしく、分裂病のそれよりもうつ病のそれに近づく傾向にある。4)自殺例(含む死亡例)も少なくない。という結論がこれまでなされています。加齢に伴って症状が軽くなるあるいは治癒するという報告の根拠については、自然治癒の可能性と自己治癒(自分の力で生き延びようとする姿勢)によるところが大きいのではないかといわれています。余談になりますが、人格の偏りということで、それを治すことに本人だけでなく、精神科医の中でも抵抗を覚える人もいます。現にヨーロッパとくにフランスなどでは、人格障害が少ないといわれています。他の国でそれと診断されるような人でも診断されないことが多いからです。これは、人格障害の人の中には学術や芸術などの分野で特異な才能を開花させる人もいるからという事実が背景にあり、それを治療してしまうことが一概によいことだといえないといった批判があるからです。治すという視点も大切かもしれませ� �が、自分の人格的な特性を自分も周囲も受け入れられるような形で表現していく工夫をするという視点があってもいいと思われます。

Q6:境界性人格障害の治療では何をするのですか?

A6:薬物療法のみで経過を観察する場合と薬物療法と精神療法(カウンセリング)の両方からのアプローチで治療していく場合とがあります。しかしながら、一般的には精神療法(カウンセリング)が境界性人格障害治療の柱と考えている専門家が大多数です。カウンセリングでは、自分の気持ちを言葉で表現できるように指導していきます。心の中が混乱しているので、カウンセラーに話したり、日記や手紙など文章で表現したりすることで、心の中の混乱を自分で整理させていきます。それによって、自分の姿を客観的に捉えられるようにします。薬物療法では、症状に応じて強力精神安定剤(抗精神薬、メジャートランキライザー)、抗うつ剤、気分安定剤、抗不安薬(精神安定剤、トランキライザー)、睡眠鎮静剤などが 使われます。精神療法では、いろいろな理論を合わせた折衷派のカウンセリングが日本では一番多いのですが、境界性人格障害の治療には、精神分析療法、認知行動療法、家族療法、対人関係療法、集団療法(グループ療法)などが有効だといわれています。何を得意とするかは、それぞれの医療機関によって異なることが多いので、この病院(クリニック)ではどんな精神療法をされているんですか、と主治医などにお尋ねになると教えてくれると思います。なお、それぞれの療法に共通しているのは、最終的に人格障害を治すということよりも、人格の統合を図っていくということを治療目標にしている点です。もっと具体的に言えば、患者さん本人が苦しんでいる、辛い思いをしている癖や行動、考え方のパター� �を見い出して乗り越えることを目標にしているので、治療では「人格障害」を治すというよりも、今問題となっている行動や感じ方に対する対策をドクターまたはカウンセラーとともに考えていくということになります。なお、治療は、患者の欲求の充足を目指す場ではなく、むしろ欲求のコントロールの訓練の場であることを境界性人格障害の患者さんはよく心得ておく必要があるでしょう。また、治療を受けていることで社会のルールを守らなかったり、逸脱した行動を取ることを大目に見てもられることは決してありません。その点もよく肝に命じている必要があります。


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Q7:境界性人格障害で入院することはあるのですか? A7:重症例の場合、または暴力や自傷行為などの行動化や衝動性が激しい場合に入院治療が勧められる場合があります。また、自分から今の自分の状態は何をしでかすかわからないから危ないなどといった場合、緊急避難的に任意入院(自分から入院を希望する)ことも多くの場合可能ですので、主治医のドクターにご相談下さい。入院前は、初めて入院される方や、ひどく寂しがり屋な方や恐怖心を持たれている方はとくに不安になりやすいものです。しかしながら入院のメリット、治療にプラスになることはとても多いといえいます。具体的には、規則正しい生活リズムが作れること、日常のしがらみから一時的に避難できリラックスできること、ほぼ毎日必要があればドクターの診察や処置が迅速に受けられること、アル� ��ールや薬物などの依存や自傷行為などの習慣を断つきっかけとなること、他の患者さんと苦しみを共有できることなどです。折角ですから、入院が決まったら、ゆっくり静養しましょう。 Q8:境界性人格障害に薬は効くのですか? A8:一般論では、境界性人格障害には薬は効かないといわれています。またそう患者に告げる精神科医が実際に見受けられます。しかしながら、実際には境界性人格障害のほぼ100%が何らかの薬物療法を受けている、つまり薬を飲んでいるという報告があります。これは、境界性人格障害に見られる衝動性や情緒不安定、抑うつなどに対症療法的ではあっても薬が有効だということがわかっているからです。性格には薬は効かないけれど、性格や思考、認知の偏りからくるさまざまなストレス症状には薬が効く、と考えるとわかりやすいでしょう。中でも、最新の精神医学の論文で、三環系抗うつ剤は境界性人格障害の衝動性を強めてしまう可能性があるが、SSRIは境界性人格障害の抑うつには効果が期待できないものの、怒りを 抑える効果があるようだという報告があります。また、抗精神病薬が精神病症状や衝動行為に有効であること、気分安定薬が衝動行為に有効であることなどの報告もあります。ちなみにもし主治医が薬をあまり出したがらないとすれば、大量服薬(OD)を恐れているからという可能性があります。精神科医の95%が境界性人格障害患者に大量服薬された経験があるという報告があります。境界性人格障害の苦しみの多くは衝動性や情緒不安定性からくるものです。たとえ対症療法であっても、症状を抑えるだけでだいぶ冷静さを取り戻せ、自分を取り戻せるものです。ただし、薬をむやみに恐れるのも問題ですが、逆にむやみに薬に頼りすぎるのもよくありません。境界性人格障害の治療の基本は問題となる行動や思考 のパターンを問題の少なくなるように自分自身で心掛けていくことです。薬は医師、薬剤師の指示を守って正しく服用しましょう。 Q9:精神科にかかる場合、大学病院とクリニックどちらがいいでしょうか? A9:精神科に初めてかかられる方は、なにかとわからないことがが多いものだと思います。精神科と神経科、心療内科、神経内科、脳神経外科の違いもわかりづらいものです。境界性人格障害や気分障害を診てもらいたいという場合は、精神科か神経科を掲げているところに行けば間違いはありません。心療内科は、動悸などの循環器系、便秘や下痢などの消化器系の症状などを伴う精神疾患の場合、内科的な見地から診断をしてもらえる反面、医師が内科系出身の場合があるので、精神科領域とくに人格障害などに関してあまり詳しくない場合があります。また、心療内科クリニックは予約制のところが多く、行きたい時に気軽に立ち寄れないこともあります。なお、神経内科や脳神経外科は脳神経などの器質的な(身体的な)障� �を扱うので、こころの病を診てもらうことは少ないでしょう。さて、精神科と神経科ですが、精神科は精神病(統合失調症と気分障害など)を得意としていることが多く、神経科は昔でいう神経症(パニック障害や強迫神経症など)を得意としていることが多いのですが、いずれも精神科医がやっていますので、実質は変わりないと考えていいと思います。精神科、神経科は大きく分けて、大学病院、総合病院の精神科、精神病院、個人開業の精神科医院(メンタルクリニック)の4つが挙げられます。このうち、もっとも気軽に通院できるのはメンタルクリニックです。ただし、都市部ではなく地方のメンタルクリニックの場合、人格障害などの臨床経験や情報があまりない可能性がありますので、その場合は大学病院や総合病院の精神 科を受診されるほうがいいかもしれません。いわゆる精神科単科の入院施設のある精神病院は、他の3つの医療機関から紹介されて受診するというケースが多いのが特徴です。なお大学病院の中にはやはり紹介状が必要、という病院もありますので、念のため事前にお尋ね下さい。大学病院は、最先端の情報や臨床経験が豊富であるという反面、何時間も待たされた挙げ句に面接が数分で終わってしまうなどといったことも珍しくないので、じっくり話しを聞いてもらいたい場合などは個人開業のメンタルクリニックをおすすめします。ただし、精神科医は、カウンセリングの専門教育を受けている方はほとんどいらっしゃらないので、主治医の他にカウンセラーが別途いらっしゃるところの方がよりじっくりと話を聞いてもらえるで� ��ょう。なお、臨床心理士(CP)が常勤または非常勤で在籍しているクリニックや病院では各種精神療法(カウンセリング)のほか、各種心理検査などが受けられる可能性があります。そちらも来院の際に確認してみるといいと思います。臨床心理士(CP)について詳しい事を知りたい方はこちらへどうぞ。 Q10:境界性人格障害になりやすい人というのはありますか? A10:境界性人格障害に代表される人格障害は性格の偏りが大きいと一般的に言われています。この性格の偏りの中でも境界性人格障害の偏ったものごとの見方の代表的なものに「二分法的思考」というものがあります。つまり、白黒はっきりさせる、良い−悪いの両極端を考えやすいというものです。現実社会には、白と黒の間にあるグレーのグラデーションのゾーンが多く、良い−悪いでは、どちらでもないという中間のものごとが多いのですが、二分法的思考をする人には、その現実がどうも居心地が悪いようです。その居心地の悪さが、極端な立場を現実でも取らせるようになり、そのために人間関係などでも孤立しがちであったりします。こうした二分法的思考を取りやすい人は、境界性人格障害になりやすい人といえ ると思います。境界性人格障害の最大の特徴であるしがみつきとこきおろしもこうした二分法的思考や極端な思考様式によるものです。 Q11:境界性人格障害の原因はなんですか?

A11:境界性人格障害の病因論では、生物学的要因と養育環境における要因との相互作用によって発症するとする見解が一般的です。養育環境における要因としては、マーラーという学者の提唱した分離−個体化理論の再接近期(幼児期早期/1〜3歳前後)に、両親に代表される最初に出会う他者を介して安定した対象関係を持てなかったことで自己の発達が十分になされず、未熟な防衛機制の段階にとどまり、満足な人間関係を作れないことが現在、境界性人格障害の第一の原因だとされています。これが、「分離−個体化理論の再接近期における分離不安」と呼ばれ、この不安を安定化させることがこれまで境界性人格障害治療の主眼となっています。実際に人格障害の人には、幼少時における両親との離別、両親の不和、 離婚、虐待、両親の情緒的不安定、言動、ふるまいにおける首尾一貫性のなさなどの体験をしていることが少なくありません。精神分析理論では、あるストレスや心的外傷体験(トラウマ=こころの傷つき)などがきっかけとなって、境界性人格障害の人は満たされなかったこの時期への固着と退行(ある種の赤ちゃんがえり)が起こっている状態だと考えます。このほかに認知行動理論などでは、学習(一般的にいういわゆるさまざまな経験)によって偏ってしまった信念が、問題のある行動や思考パターンを引き起こすと考えます。養育環境に関してもっと一般的に言えば、家庭内の世代間境界が曖昧で家庭内の役割規定が不明確であり、家族関係に怒りや敵意などの激しい感情が渦巻き、その上相互のサポートに乏しいことなど� ��境界性人格障害の家族の特性として指摘されています。なお、Johnsonら(1999)は、20年間の追跡調査から発達期における虐待やネグレクト(無視、無関心)により人格障害が早期成人期に発展する確率が4倍高まることを明らかにしています。逆に家族の構造が強く保たれ、両親以外に養育者がいて両親の問題の影響を軽減できる社会では境界性人格障害の発生が少なくなるという報告もあります。(Paris, 1994)しかしながら町沢などは、我が国日本では虐待やネグレクトは極端に少なく、むしろ過保護や過干渉が、わがままや甘え、過敏な情動的な反応などを共依存の状態の中で助長し、境界性人格障害の発生の背景にしているようだと指摘しています。また、生物学的要因としては、遺伝的要因などが境界性人格障害の原因だという見解も最近では見られるようになりました。また、従来から多動児・注意障害児(ADHD)であったり、頭部外傷の既往があるなど病因の一つとして脳器質的要因も想定されています。また、最先端の研究では境界性人格障害患者の20〜40%にセロトニンの分泌異常があるという報告があります。また脳の側頭葉に脳波の異常が認められたり機能障害が生じている可能性も指摘さ� �ています。脳下垂体のホルモンが異常に高くなっていることなどもわかっています。さらに日本の家族形態においては、母親の過保護が原因であることがしばしば指摘されています。なお、最近ではこれらの要因に加えて、断片化した急速な変化をする社会文化的な要因なども重視されるようになってきています。いずれにせよ、以上の様々な要因が重なって境界性人格障害の原因となっているということは確かなことだと思われます。

Q12:境界性人格障害の人が陥りやすいパターンてあるのですか?

A12:多くの境界性人格障害の人が下記の図のような悪循環に陥っていると言えます。

「わかっていてもやめられない」のが境界性人格障害のひとつの特徴だといえます。しかし、それを踏まえた上で、こうした悪循環から抜け出すために、医師やカウンセラーまたは周囲の手助けや助言を素直に受け入れる姿勢がよりよい回復のためには必要です。なお、境界性人格障害の患者さんがなんらかの症状や問題行動を呈するときの心理状態は、強い感情や特定の考えに支配されている精神状態、いわば心が一色に染め上げられている状態にあると言われています。その状態から抜け出す方法としては、その状態を距離をおいて眺めながら、自分自身の体験としての意味や対人関係における影響などを含めた多方面からの理解を導入して、その全体的な把握に努めること、他の事物に意識を集中すること、気晴らし をすること、リラックスするように心掛けること、といったことが有効だと言われています。

Q13:境界性人格障害から回復したいのですが心掛けることはありますか?

A13:とにかく物事に耐えること、我慢するということを覚えること、欲求不満や怒りや自己嫌悪を感じたとき、それをしばらくの間、抱えることを覚えることが第一ステップです。他者から何かしてもらうということだけでなく、自分から愛情や思いやりや優しさを与えることを覚えることも心掛けましょう。そして、できれば趣味などを持ち、フラストレーションや自信の喪失を解消し、新たな活き活きとした自分を取り戻す努力をすることも大切です。自分の苦痛をある程度抱えることができるようになり、相手のよい面も悪い面もあいまいな面も受け入れることができ、趣味などで欲求不満などを解消、昇華することができれば、自傷行為などもずっと減ってくるはずです。また、好きであった人が急に嫌いになると� �う体験も、その人のどんな側面に出会っても、どんな人にもいろんな面があるのだという認識をもつこと、さらにはできればその相手の立場に共感することがとても大切です。とくに相手のあまり好きでない部分にすぐ拒否や反発をせず、それをしばらく受け入れて、抱えていられることで、BPD特有の空虚感が消失するといわれています。また、他者にもそれぞれの事情があること、必ずしも自分の思い通りにならないことを知ることも重要です。また、自傷行為や問題行動などに関しては、それをするとその結果どうなるかを、それをするより先によくじっくりとよく考えてみることがきわめて重要です。なお、境界性人格障害者の基本的な認知の歪みを修正していくことが重要であると認知療法の先駆者A.ベックは述べて います。境界性人格障害者の基本的な認知の歪みとは、1)この世界は危険で悪意に満ちている、2)私は無力で傷つきやすい、3)私は生まれつき嫌われものだ、の3つの歪みであるとし、この中間的な段階がないのが特徴であると言っています。これらを例えば、1)この世界でも安全だと感じることもある、2)私は強い意思を持とうとしたこともある、3)私を慕って話し掛けてくれた人もいた、などと認知の歪みを修正していくことも、:境界性人格障害からの回復には、とても重要なことです。とくに:境界性人格障害の方は、理想−現実、良い−悪いという極端な二分法で物事を考え、捉えやすいので、世の中にはあいまいなもの、白と黒の間にあるグレーなものの方が多いのだという事実を受け入れていくことが、非常に大� �になっていきます。とくに人物については、たとえば、「お父さんは乱暴だけどやさしいところがある」とか「お母さんは母親であると同時に女でもあり、妻でもあり、人間でもある」などといった多様な側面を認識できるかどうかが重要になります。自他ともに良いも悪いもあいまいなものもすべて受け入れられたとき、あなたはもうすでに:境界性人格障害から回復してきていると言えるでしょう。


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Q14:境界性人格障害の理論的背景にはどういったものがあるのですか? A14:歴史的にはシュナイダーの提唱した精神病質という概念、クレッチマーの分裂病質、循環病質、ナイトの境界分裂病あるいは境界状態、アドルフ・スターンの「ボーダーライン」という言葉の初めての使用、フロッシュの精神病的性格といった概念などを経て、1986年アメリカ精神医学会の『精神疾患の診断統計マニュアルDSM-III-R』で境界性人格障害という診断名が採用されました。この診断名ができた背景には、境界性人格障害の原因を、マーラーが提唱した生後20ヶ月頃に見られる分離-個体化期の再接近期に見られる分離不安への固着・退行だとするカーンバーグなどの精神分析学派の影響が色濃くあります。ガンダーソンはDSM-III-Rの境界性人格障害の診断基準のもとになる境界患者診断面接(DIB)という診断基準を、グリン カーはクラスタ−分析によりボーダーライン症候群という概念を、カーンバーグは境界パーソナリティ構造(BPO)という概念を提唱したことでも知られています。また人格障害の定義、分類はミロンの人格理論に基づいて行なわれました。その後、マスターソンは母から見捨てられたという絶望的な喪失体験による見捨てられ抑うつが青年期境界例に特徴的であるという研究を発表し、クラインやガンダーソン、ストーンなどは境界例を精神分裂病よりむしろうつ病との関連が深いという研究を発表しています。最新のアメリカでの研究ではクロニンジャーの遺伝子や脳内物質と気質の関連性の研究が注目されており、この観点から人格障害が見直されています。この研究から、人間の脳の神経回路は生まれ育った家庭、社会、文化な� ��の環境の影響も受けて組織化されていくということがわかってきています。 Q15:境界性人格障害は子どもや老人でもなるのですか? A15:境界性人格障害の好発年齢(よくみられる年齢)は、10代後半から成人期にかけてと言われており、40過ぎの境界性人格障害患者はめったにみられないことが報告されています。つまり、子どもや老人ではほとんど見られないということです。子どもの場合、境界性人格障害と同様の症状が見られても、学習障害(LD)や注意欠陥多動性障害(ADHD)と診断されることが多いようです。なお現代では、大人でもADHDがあるとする説もありますが、境界性人格障害とADHDの関連について詳しく知りたい方はこちらのサイトへどうぞ。 Q16:大量服薬(OD)やリストカットがやめられません、どうすればいいのですか?

A16:管理者komorebiは独自に複数の専門家に自傷、自殺衝動が高まったときの応急処置として一番いい方法は何か尋ねてみました。あくまで対症療法ですが、薬を飲んで寝てしまうこと(15分〜30分は寝つけなくてもベッドに横になって目を閉じてじっとしていてください、やがて薬が効いてきて気分が落ち着くはずです)、という回答が圧倒的に多かったです。この場合の薬とは、普段飲んでいる薬や頓服のことを指します。多くても普段の倍量(2倍程度)くらいまでなら服用して構わないとのことでした。決して大量服薬はしないで下さい。また、最新の研究報告では、腕や手首にマジックペンでマーキング(落書き)をすることでリストカットやアームカットを回避できる有効な手段になるという報告がありま す。血の色に安心感を覚える人は赤のマジックで手首をなぞるといい、というわけです。(同じような意味合いで、ビタミン剤など大量に服用しても身体に害が無いような錠剤を大量服薬したくなったときに飲むというのも有効ではないかと思います。また攻撃性が外に向かう人はサンドバッグを通販で購入したり、クッションなどを殴ったりしてみるといいと思います。破壊衝動が強い人は、100円ショップなどで皿などを買い込んできて人目のつかないところで思いっきりそれを割ってみるなども効果があると思います。また、頭に血がのぼってしまった状態や自分を見失いそうなパニック状態では、部屋の中にあるものや窓の外の景色などを数えたり確認したりする儀式的な行為が有効であることがわかっています� �「あ、机がある、椅子がある、天井がある、テレビがある、カーテンの波は1、2、3、4、、、と指差し、数えて確認していきます。これをこころが落ち着くまで繰り返しまず。すると、危機的状況から気をそらすことができ、リストカットやODをやり過ごすことに成功することがあります。より詳しい対処法については米国のサイトにある自傷行為の対処法をExciteでウェブ翻訳したものをリンクしておきますのでぜひ参考にしてください。(※ただし翻訳が機械翻訳のため不自然ですのでご了承下さい。なお文中に出てくるSIという単語はSelf-injury=自傷のことです。)いずれにせよ自傷行為、攻撃性、自殺衝動を自分でだましてみるのもこの障害を乗り越えるためのひとつの智恵だと思いましょう。)大量服薬(OD =オーバードーズ)やリストカット、アームカットをしてしまう人の心理の多くは、自分のこころの傷や痛みに気がついて欲しい、自分の話しを聞いて欲しい、自分が愛されるに値する人間かどうかを確かめたい、生きている実感が欲しい、内的な苦痛に見合う外的な痛みを感じる必要があった、自己嫌悪や怒りを自分自身に向けてしまう、とにかく存在を消してしまいたいなどといったものです。また、「手首の人格化」と呼ばれる機制として、手首などを自分の両親など実際の人間のように考えてそれを罰するために自傷を行なうケースもあると言われています。それらのことを別の方法で、例えば親しい人に言葉で打ち明けて共感してもらうなどの練習をする必要があると思います。自傷行為のきっかけとなった欲求を言葉で伝� ��られるようになることで、自傷行為は激減すると言われています。しかしながら、こうしたことは時間をかけてゆっくり訓練する必要があるでしょう。また、リストカットをしたくなってしまうきっかけとなるものに、家族や友人との対立、孤立、離別などの対人葛藤や対人関係の破綻、不安定な家族関係や幼少時の虐待のフラッシュバックなどがあります。なお、生物学的な研究ではリストカットをしたい衝動に駆られているとき、脳内のセロトニンやβエンドルフィンといった脳内麻薬のような分泌物が増加するという報告があります。これはつまり、リストカットをすることで、気分を落ち着かせたいということを意味しているのかもしれません。またそうした陶酔感にひたることで普段の厚い鎧(よろい)や仮面をはずし、� �離不安のあった幼児期に退行して安心感を得ることができるからであるという説もあります。なお、大量服薬(OD)は、命の危険はもちろん、一歩間違うと肝機能障害を起こし、一生透析生活を送ることになったり、半身不髄、脱毛、植物状態になる可能性もあります。リストカットは、比較的致死率が低いとはいわれていますが、動脈まで達してしまった場合やはり命の危険があります。いずれの行為も、それを繰り返しているがために、周囲の大切な人を失ったり離れていってしまい後悔する人が、多く見られます。その結果自分をさらに追い詰める結果になります。そのリスクを常に意識している必要があります。自分でどうしても制御できない場合、周囲の人にあらかじめ薬や刃物などの管理をお願いしておくという方法も 大変有効です。実際は、どこにしまっているかわかっていても、ワンステップあることで、やめておこうと思い直すことが多いからです。

Q17:境界性人格障害とうつ病はどう違うんですか? A17:まず明らかなことは抗うつ剤に反応するかどうかが大きな見極めになるといわれています。抗うつ剤に反応する、つまり効き目が明らかな場合は、うつ病であると言えます。境界性人格障害は、情緒不安定と激しい衝動が特徴ですが、うつ病は落ち込みふさぎ込んでなにもする気力がないという点が特徴で、主たる気分も境界性人格障害では空虚感、虚無感、むなしさなのに対して、うつ病では寂しさ、悲観的、自責感などとちょっと違います。境界性人格障害では自殺未遂率が高く自傷行為が多く見られるのに対して、うつ病では自殺既遂率が高いという点も特徴です。しかし、うつ状態という意味では、ほとんどすべての境界性人格障害に見られ、抗うつ剤も境界性人格障害のうつ状態にも効くことがあります。境界性 人格障害のうつ状態は、「見捨てられ抑うつ」という状態によく陥るといわれています。実際には、境界性人格障害とうつ病の両者は密接に関連が深く、最新の研究でもうつ病、境界性人格障害ともに脳内のセロトニンの分泌になんらかの変調をきたすことが原因だと考えられるという報告があります。なお、「他罰的なうつはボーダーを疑え」という考えをもっている精神科医も少なくありません。典型的なうつ病の人は他人を責めず、自分を責めてふさぎ込むことからこうした考えが出てくるものと思われます。 Q18:境界性人格障害と他の人格障害が同時に診断されることはあるんですか? A18:あります。たとえば、境界性人格障害と分裂病質人格障害など、多いときは3つくらいの人格障害が同時に診断されることがあります。なお、境界性人格障害と高い確率で合併するものとして、演技性人格障害、反社会性人格障害、分裂病型人格障害、依存性人格障害が挙げられています。 Q19:境界性人格障害と他の精神障害が同時に診断されることはあるんですか?

A19:あります。境界性人格障害と他の精神疾患の合併比率は96%と言われています。別の報告では境界性人格障害と同時に診断される精神疾患でもっとも多いのは気分障害(うつ病)で境界性人格障害患者のほぼ100%近くが気分障害の診断基準も満たすのではないかと言われています。次いで多いのは、気分変調症(軽症うつ病)、不安障害(パニック障害)、摂食障害(拒食症、過食症)、物質関連障害(薬物またはアルコール依存)、身体表現性障害、解離性障害などがあります。統合失調症(精神分裂病)なども頻度はかなり少ないと思われますが、同時診断される可能性はあります。

Q20:人格や性格は変えられるのですか?

A20:学者や専門家によって意見は様々ですが、一般的には性格は変えられるものだといえます。人格(パーソナリティ)は気質と性格から構成されています。気質は生まれ持ったものですから、なかなか変わるものではありません。性格は、育ってきた環境などによってある程度特徴づけられてしまいますが、その後の環境や本人の価値観や意思によってある程度変えられるものです。精神科の領域では、考え方や行動のパターンを変えていく認知行動療法などのほか、性格を変える上で様々なアプローチがあります。


私は看護師でなければなりません?
Q21:大量服薬(OD)してしまいました、どうしたらよいでしょうか? A21::意識がない場合、さらに呼吸が止まっていたり、つねったり叩いたりしても起きない場合は一刻も早く救急車(119番)を呼んでください。ただちに救命救急施設のある病院で胃洗浄、活性炭投与、浣腸、点滴などの処置をしないと命を落とす危険があります。意識がある場合でも、あきらかにたくさん飲んでしまったという場合、昼間ならかかりつけの医師に、夜間なら119番に連絡をして事情を説明し、指示に従ってください。周囲の方が発見された場合、ご本人の周辺やゴミ箱、薬入れ、バッグなどを探し、可能であれば何という薬をどれだけ飲んだか救命救急の医師に伝えられるよう、空の薬のシートなどを持参してください。外見は何の異常もなくても身体の中は重傷、ということもよくありますので、この程度の量なら大丈夫だろうという自己判断は絶対禁物です。
思わぬ後遺症を残したりしますので、早急に対応してください。なお、周囲の方は普段から余分な薬を溜め込んでいないか、常に気をつけるようにして下さい。 Q22.境界性人格障害を専門にしているいい病院を教えてください。 境界性人格障害に対して積極的に取り組んでいる医療機関や病院ですが、このサイトおよび掲示板などは公共性があるという性質上、具体的な名称を書き込むことは、大変申し訳ないのですがご遠慮願っています。具体的な名称を挙げてしまったために、その医療機関または病院に患者さんが殺到して、結果的に従来からその医療機関または病院にかかられてた他の患者さんに迷惑がかかってしまうことになるからです。なお、管理人のkomorebi宛に直メールをいただいてもご紹介はいたしかねますので、あらかじめご了承ください。利用者同士が掲示板などでご自身のメールアドレスを公表して、個人的に情報交換されるのはいっこうに差し支えありませんので、どうぞご利用下さい。また、当サイトの「リンク」のコーナーに若干では ありますが、境界性人格障害の治療を標榜している病院へのリンクがあります。こちらもよろしければご覧下さい。ちなみに人格障害を診てくれる病院に関しては、一般に評判の良い力のある医療機関であれば問題はないといわれています。具体的には、一般の精神障害の患者を丁寧に診てくれるところなら大丈夫です。 Q23.「見捨てられ不安」がとても強くて困っています。どうしたらよいでしょうか? 見捨てられ不安の解消は、境界性人格障害の治療の最終的な目標の一つでもあります。したがって、すぐにそれを解消することは難しいといえます。しかし、一時的に凌ぐためによいと言われている方法があります。それは、毛布や枕、ぬいぐるみなどを抱き締めることです。これらのものは、移行対象と呼ばれ、見捨てられ不安をある程度緩和してくれることが知られています。市販で癒し系グッズとして抱き枕などが売られていますので、こうしたものをひとつ身近においておくことをお勧めします。移行対象とは基本的に無生物のことをさすのでペットなどは含まれません。ペットなども癒される面が多分にあり、私などは飼うことはプラスになると思いますが、なかには情緒不安定なときに虐待してしまったり、死別� ��たときにうつになってしまう方もいらっしゃるようなので、ペットの世話に責任を持てそうもない場合は避けたほうが無難かもしれません。なお、違った視点からの考え方ですが、ボランティアなどなにか人の役に立つこと、人から頼りにされるようなことをすることで、自分が必要とされている人間であるという自覚を持つことができて、自分の見捨てられ不安から逃れられると同時に、障害自体から回復に向かわれているという境界性人格障害の患者さんも多いようです。そのようなチャンスを探してみるのもいいことだと思います。
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Q24.主治医または担当のカウンセラーと気が合いません。どうしたらいいですか? 病院を頻繁に変えて渡り歩くことを「ドクターショッピング」といって、医療関係者などはこうした人たちのことをあまりよく思っていないことが多いようです。しかし、私個人の意見では人間には相性の良し悪しがあるし、自分がほんとうによくなりたいと思う気持ちに正直であるがために、病院を変えることは決して悪いことだとは思いません。ただし、境界性人格障害の人は往々にして、理想化転移(陽性転移)と呼ばれる現象なのですが、治療者をまるで救世主のように理想化してしまう傾向、あるいは理想化したがる傾向があります。それがエスカレートするとプレゼントを贈ったり、恋愛感情さえ抱いてしまったりすることがあります。そうした傾向に注意する必要があります。こうした理想化転移の扱いに慣れている治� �者の場合、ほとんどは適切な対応をしてくれますが、まだかけ出しの治療者などではこの理想化転移にこころを動かされ、こんどは患者さんに対して恋愛感情を抱いて、恋愛関係にまで発展してしまうなどということがまれにあるようです。これを専門用語では逆転移と言いますが、同じことはマイナス感情についても言えて、患者さんが治療者に怒りや攻撃性などを向けたとき(脱価値化、陰性転移などといいます)、慣れていない治療者などはこれに対しても逆転移を起こして治療が進まなくなったり、中断されてしまったりします。こうしたことを起こさないように、境界性人格障害の人は診断やカウンセリングを受ける事前に、治療者(主治医または担当のカウンセラー)に対して、あまり期待を持ち過ぎないように心掛けるべき だと思います。ただし、自然な感情を表すことは決して悪いことではありません。自分の気持ちに正直かつ素直になった結果、理想化転移や脱価値化を起こしてしまったらそれをむしろ新たな自分に変わるための材料、あるいは課題ととらえて向き合うくらいの気持ちを持つことも大切なことです。つまり、治療者(主治医または担当のカウンセラー)と気が合わなかったからといってすぐに病院や担当カウンセラーを変えるのではなく、一度そこで立ち止まって、なんで気が合わないんだろう?気が合わないと思っていること自体を伝えてみたらどうだろう、などと考えてみてください。境界性人格障害の患者さんはドクターショッピングをしやすいという批判もありますが、十分冷静に考えた上で、やはり病院や担当カウンセラー� ��変えたほうが自分にプラスになると思ったら、その先はあなたの責任と自由意思で決めていいと思います。 Q25.患者さんが依存してきて困ります。突き放したほうがいいいのでしょうか? A25.境界性人格障害の患者さんに対しては、冷たく突き放すことも、過剰に甘やかすこともともによくありません。社会的な枠を無視して、パーソナルな密着した関係を求めてくるのが特徴ですが、関わりには最低限の枠があり、その中で初めて誠実に関わることができ、信頼関係を築いていくことができるということをしっかりと伝えるべきです。いずれにしても、常識的に考えてどうか、といった一般常識、社会常識を念頭においた対応がもっとも望ましいと言われています。なお、そうした対応をしていると患者さんは一定の我慢が必要になりますが、我慢の理由を明確にしてあげることで、我慢に耐える力が強まることも知られています。また、自分の我慢の限界はここまで、と個人の負担の限界も明確に伝えてあげる ことも大切です。とりわけ依存の問題では献身的なサポートで一時的に状態が安定しても、要求がエスカレートしたりすれば、本人の力や自信にはなりません。あくまでも、本人の強さやコントロ−ルの力を高めることを主眼に援助していく姿勢、ひとりの独立した大人として扱っていく心掛けが必要です。 Q26.境界性人格障害は遺伝するのでしょうか? 境界性人格障害が遺伝するかどうかはいまだ不明なままで、医学的に確認されていません。ただし、境界性人格障害の臨床遺伝学的研究では、家族にうつ病、反社会性人格障害、薬物依存の患者さんが多いということは繰り返し報告されています。

Q27.境界性人格障害の患者は就職できるのでしょうか?

正社員、パート、派遣社員、アルバイトを問わず、境界性人格障害の患者さんで仕事をしている方は大勢いらっしゃいます。実際は、一ケ所の職場で長続きせず職を転々としているケースが多いとも言われていますが、それが決して許されないことなどと思う必要はまったくないと思います。むしろ、今度は前回より長く働いてみよう、といったチャレンジ精神こそ大事にすべきだと思います。現実を知ること、そして困難を乗り越えることは何にもまして境界性人格障害の治療にとって大切なことです。たとえ失敗したとしても、そのチャレンジから学ぶことは必ずあると思います。自分の選んだ道を歩むことによって、自らの心理的葛藤も整理されることがありますし、自信も強く持つことができ、適応能力も高 めることができます。その意味では、あまり臆病にならず、どうにかなる、という楽観的な姿勢と余裕をもって職探しをするべきだと思います。ただし、注意すべき点は、その仕事が患者本人が主体的に選んだものであるのかどうか、その能力や適性に見合ったものであるのかどうか、単なる思いつきや他の人の意見に動かされているだけではないか、など現実的な視点で検討してみる必要があることを忘れてはなりません。なお、面接のときや職場の同僚などに自分が境界性人格障害であることなどは、話すべきではないでしょう。世間ではまだこの障害に対する認識はほとんど正確なものがないといっても過言ではありません。不必要な誤解や偏見、ご自身に不利な状況を避けるためにも障害のことは公言すべきではありません。< /span> Q28.境界性人格障害の患者は結婚できるのでしょうか? まったく問題はないと考えたほうがいいと思います。むしろ結婚することにより、症状が軽症化することもよくあるようです。なお、未婚であっても恋人ができることで症状が安定化する場合がよくあるようです。境界性人格障害の患者さんに彼氏(または彼女)ができたと聞いてほっとする精神科医療関係者はとても多いそうです。ただし、境界性人格障害患者同士の結婚は安定した生活を送ることはとても困難であると言われています。また米国での調査において、境界性人格障害患者の結婚率は全国平均の半分であること、境界性人格障害患者が子どもを持つ率は全国平均の4分の1であることなどが現実的な数字として報告されています。なお、境界性人格障害患者のパートナーとして自己愛が強いタイプが安定した関係を築 いているようだという報告があります。また町沢静夫は「ボーダーラインの患者でも治そうという意欲が極めて強く、いかに感情の変動が激しくとも、怒りが激しくとも、あるいはリストカッティングや自殺未遂があったとしても、一年ほどですっかりよくなって結婚していくなどということは、実際はかなりみられる」と述べています。いずれにせよ、確かな愛情と絆があれば、どんな困難も二人で乗り越えていけるものです。支えあって生きていけるパートナーが見つけられることほど境界性人格障害からの回復に心強いものはないでしょう Q29.境界性人格障害が治りにくい理由には何が考えられるのでしょうか?

大きく3つの原因が考えられると思います。一つめは、人格障害は性格の偏りによって生じるさまざまな障害なので、性格というものの性質上長い時間かかってできあがったものなので、これを修正することにも同じように長い時間がかかるということです。二つめは、自分が人格障害だということに慣れてしまい、医学書など人格障害に関するさまざまな本やネットなどの情報を過剰に目や耳にするようになると、自分は人格障害なんだと自分に繰り返し暗示をかけてしまい、いつのまにか以前よりもっと人格障害らしくなってしまうといったことがよく見られます。これを医原性人格障害といいます。三つ目は自分は人格障害だから仕事をしなくていいとか、人から優しくされて当然だとか、知らず知らずのうち� �人格障害であることに付随する利益を思うがままにするようにそこにあぐらをかいてしまうような状況が生じます。病気なんだから甘えたり、わがままを言ったり、何でも許されると考えてしまうと、回復が遅くなります。そうした病気でいることで得をすることを疾病利得(しっぺいりとく)といいます。これらのほかにもさまざまな原因が治りにくい理由として考えられますが、上記の3つは頭の片隅に置いておいてみてください。


Q30.精神科での治療を断られる事はあるのでしょうか? 治療関係も現実の人間関係のひとつである以上、そこに最低限のルールがあるのは当然です。したがって、精神科だからといって何をしても許されるという場ではありません。多くは初診の場合、または治療中であっても、「治療契約」、「限界設定」、「制限設定」などといって、「これこれをしたら治療は中断しますよ」などという取り決めや約束が交わされる事がしばしばあります。それらは、こころの専門家である精神科医や臨床心理士、ケースワーカーなどが、十分な知識をもって治療にプラスになる境界線や制限を綿密に組み立てている事がほとんどなので、それに素直に従う心構えが必要です。ですから、治療を断られるということは、それらのルールを破ったり逸脱したりしたときに起こります。く れぐれも、それらのルールは守るように心掛けましょう。ただし、精神科医の中には残念なことに境界性人格障害の治療に後ろ向きの方がいらっしゃいます。そうした医師に治療を断られたら、むしろその医師にかからなくて良かったと思って、境界性人格障害の治療に前向きな他の医師に診てもらうようにしましょう。 Q31.患者さんが暴力をふるい困っています。どう対応したらいいでしょうか? 適切な対応として一般的にまず言えることは、患者さんと暴力被害者の間に距離を設けて、両者の接触を制限することです。物理的に距離を取るようにしてもいいですし、特定の話題を避けて、中立的で刺激の少ないコミュニケーションのみを取ることに限定することなども有効であると言われています。また、話しを中断して席を外す、「いまは話し掛けないでくれ」などと言って別の部屋に移動するなども暴力を回避するのに有効です。なお最終的には、暴力が出そうになったらその代わりに訴えたいことを言葉で表現してもらえるように徐々に練習してもらうことが肝心です。言葉で表現できない場合は、紙切れとペンを用意してそれになぐり書きでもよいので、文面で言いたいことを伝える、伝えあうというのも冷静� ��その場をやり過ごす有効な手段です。いずれにせよ、暴力の影響の大きい場合や度重なる暴力がある場合、またそれが予想される場合は、被害者を安全な場所(親戚の家など)に保護するか、患者さんを入院させるなどの対応を考えるべきだと思われます。また、夫婦間の暴力は、DV(ドメスティック・バイオレンス)といって、法的に介入してもらえる問題なので、市役所などの法律相談や弁護士事務所などで対応を相談してみることをお勧めします。DVに関するサイトのリンク集は当サイトにもありますし、こちらにもあります。なお、傷害事件に発展しそうな暴力の場合は、場合によっては警察に通報するなど迅速な対応が必要になることもあります。また、精神科で暴力に介入することには限界があります。薬物療法などで� �常な興奮を静めるようなことも場合によっては可能なので、主治医やカウンセラーに相談してみることも無駄なことではありません。被害者の多くは「私だけが我慢すればいい」と思って耐えてしまっていることがとても多いといわれていますが、暴力がエスカレートする前に何らかの対策を講じることがまず先決です。これは暴力に限ったことではなく、境界性人格障害の治療全般に関して言えることですが、献身的なサポートで一時的に状態が改善しても、それだけでは本人の力にはならないということを覚えておきましょう。暴力に立ち向かう勇気を持つことも大切であることを覚えておきましょう。 Q32.デイケアを利用してみたいと思います。どうしたらいいでしょうか? 日本のデイケアは、対人関係を形成することに障害のある統合失調症(精神分裂病)の患者さんを扱うところがほとんどですので、境界性人格障害の患者さんのためのデイケアというものを探すのは難しいと思われます。また、境界性人格障害の患者さんは比較的気軽に対人関係を結ぶ傾向があるので、統合失調症の患者さんと傾向がむしろ逆だと言われています。こうしたデイケアでは、一定の取り決めやルールがあることが多いので、そうしたルールを守れることが参加の大前提になります。ことに恋愛関係や電話やメールのやりとりなど、デイケア外での逸脱行為が境界性人格障害の患者さんには目立つと言われています。こうしたルールに従うことを遵守するならば利用は問題ないと思います。あとは、その医療機関などに参� �できるかどうかを確認してみてください。 Q33.どこにいっても自分には居場所がない気がします。どうしたらいいでしょうか?

「自分には居場所がない」、「安らげる場所がない」という訴えは、境界性人格障害や回避性人格障害を中心として広く認められます。このような方々の多くは、ある場面で自分を受け入れてもらおうとして、過剰に気を遣ったり、周囲からどのように見られているかを意識し過ぎて疲労や緊張を強めて、かえってその場に留まることができなくなるという現象がよく見られます。対処法としては、その場での対人関係を負担にならない程度にまで縮小して自分を目立たせないようにすること、大人しくしていようと心掛けてみること、多少は悪いところを出してみて、それを周囲に受け入れてもらうようにするとかの方策が考えられます。外見的に何も問題ないように振る舞っていること自体がとても辛いという場合などがよくありま� ��ので、そうした自分の状況を自覚してあげること、つまり自分のこころの中に自分の居場所を与えてあげることも大切です。なお、ひきこもりがちで、社会との接点がみいだせなくて不安な方には、各市区町村が「精神障害者地域生活支援センター」という、精神障害者同士、およびその家族が交流を持てる場所を提供しています。こうした施設を利用してみるのも、よい方法です。全国の「精神障害者地域生活支援センター」の一覧はこちらです。※ただし、最近は次々に新しい支援センターが出来つつあるようですので、リスト中になくても、一度お住まいの市区町村に確認してみてください。

Q34.境界性人格障害と統合失調症(精神分裂病)との違いはなんですか? 第一に言えることは、「現実検討能力があるか、ないか」が境界性人格障害であるか、統合失調症であるかの決定的な見極めになります。統合失調症の方でも現実検討能力がある場合も多々ありますが、多くの場合、統合失調症では現実検討能力が失われています。逆に、境界性人格障害では、現実検討能力が失われることは、まずありません。次に、幻覚、幻聴、妄想などの症状(これらを陽性症状といいます)は境界性人格障害では、ほとんど見られませんが、統合失調症の方には見られることが多く、それが統合失調症の主症状とも言えます。また感情鈍麻や意思疎通困難などの症状(これらを陰性症状といいます)も統合失調症の症状で、他者との接触性がよくない自閉的な状態になります。逆に境界性人格障害では、衝動性� �情緒不安定性から、たやすく他者と関係を持ちたがる傾向があり、この点でも統合失調症の患者さんとは明らかに逆の行動パターンをとる傾向にあります。しかし、両者ははっきりと明確なしきりがあるわけでなく、相互に症状が重複したり、移行したりする場合もあります。 Q35.保険適応範囲内でカウンセリングしてくれるところはありますか? アメリカ、とくにカルフォルニア州などでは、床屋の数ほど心理クリニックがあるそうです。しかしながら、日本の現状はとても遅れており、心理クリニックはもとより、カウンセリングを行なってくれる精神科クリニックの数も極端に少ないのが現状です。その上、そうしたカウンセリングも保険の適応で行なってくれるところはごく僅かで、日本の精神科医療、メンタルヘルスの時代遅れな状況を物語っています。とはいえ、いくつかの精神科クリニックではカウンセリングを保険適応内で行なってくれるところもあり、こうした良心的なクリニックを探すのは大変ですが、ことに境界性人格障害の患者にとっては、こうしたところでじっくりと時間をかけて精神療法を受けたいものです。探し方ですが、まずお住まいになってい� �または近隣の各都道府県または市区町村の精神保健福祉センターに出向くか電話相談に電話し、「現在精神科に通院している(または通院を希望している)のですが、保険適応でカウンセリングをしてくれる精神科の医療機関を探しています。よろしければ教えて頂けませんでしょうか?」とお尋ねになってみてください。多くの場合、手元の資料で、いくつか病院を紹介してくれるはずですので、そちらを一件一件あたってみてください。たいてい、「現在通院しているなら主治医の紹介状をお願いします。」とか、「カウンセリングが必要かどうかは院長先生の判断になりますがよろしいですか?」などと言われますが、それは先方の指示に誠実に従ってください。また、「認知療法にとても興味がありぜひ受けてみたいと� �うのですが」などと、特定の精神療法を希望するタイミングも難しいですし、「それはあなたが決めることではない」などと言われてしまうかもしれませんが、あくまで希望を相手に伝えることが悪いことだとは思いません。希望の精神療法があれば、その旨をカウンセリングを申し込む際に申し出てみましょう。

Q36.自殺衝動が強い人に「死にたい」と言われた時どう対処すればいいですか?

まず、自分をしっかり持って、相手の気持ちになって、ひたすら話を聞いてあげて下さい。これらを専門的には、「共感的理解」、「無条件の肯定的理解(配慮)」、「自己一致」と呼び、カウンセリングの大原則となっています。メールや電話など直接対面できない状況の時の対処の仕方はこちらのページが大変参考になります。
「無条件の肯定的理解(配慮)」とは、非審判的・許容的な雰囲気をつくることです。相手が「ここでは何も話してもいいんだ、とがめられることはないんだ」と安心して心を開ける土俵作りです。ただそれだけのことですが、これが以外に難しいことです。 人は誰でも自分なりの価値観を持っているからです。「うそはつくべきではない」「離婚はすべきではない」「年長者には敬意を払うべきだ」などなどです。自分の価値観に反する行動を相手が示すと、どうしてもそれをとがめたくなるのです。「未成年のくせにどうして酒なんか飲むのか」という具合です。カウンセリングでは「治そうとするな。わかろうとせよ。」を基本姿勢にしています。この、わかろうとする姿勢が「うんうん、そうか、なるほど」という反応になって表れるのです。裁く姿勢、とがめる姿勢、治そうとする姿勢が感じられたとき、相手は防御的になるか攻撃的になります。そこには許容的雰囲気はありません。「頑張れ」「甘えるな」「元気を出せ」「前向きに生きろ」「気分転換に身体でも動かせ」などの叱� ��激励や精神論、正論やポジティブシンキングの押し付けなどは、最も本人を辛く苦しめるものです。よけいに自殺に追い込むことになりかねないので絶対に禁物です。それが無理だから苦しんでいるのですから。
「共感的理解」とは、相手の言葉から感じられる気持ち、たとえば怒り、悲しみ、恐れ、喜び、混乱、当惑などの気持ちをそのままに感じ取ることです。自分の判断は混ぜないで、ただ聴いたとおりに感じ、ついていけばよいのです。 「共感」の本当の意味を理解するために「同情」とどう違うのかを考えてみましょう。この区別は微妙なのですが、「死にたい」と言われた時に求められるのは、あくまでも「共感」であり「同情」ではありません。同情も相手をいたわる気持ちから発するものではありますが。 「あのことで課長にこっぴどくしかられちゃったの。すごくくやしい…」 に対して 「えー、かわいそう」というのが同情的対応です。 「そうだろうね、くやしかったんだよね」というのは共感的対応といえます。 同情的に「かわいそう」というのは、相手よりも高い位置にいて観察し、感想を述べているという感じです。「評価」しているニュアンスもあります。相手は、「別にかわいそうではない」と思うかもしれません。 ここでは「すごくくやしい」という気持ちを受け止め、相手の立場に立って「ともに感じる」のが共感なのです。「共感」の意味をよく表した言葉に「相手の気持ちに寄り添う」という表現があります。
「自己一致」とはどういう状態かというと、「その場面でありのままの存在であり、作為(うそ偽り)がない」ことです。共感の言葉や反応が、本心から発せられているということです。 つまり、口では相手を受容・共感しているが、内心は「どうしても受け容れられない」という場合、自己一致していないわけです。いってみれば「うわべだけ」の応答があって、受容している・共感している「ふり」をしているにすぎません。自分の応答が、いま、自分の気持ちに一致している状態が「自己一致」です。 しかし実際問題として、常に「自己一致」の状態で、相手を受容し、共感することができるものでしょうか。相手をしているうちに「この人はなんて自分勝手なんだろう」「なんでこんな小さなことにこだわっているんだろう。情けない」などと感じてしまうこともおおいにあります。自己一致というのもやさしいものではないことがわかります。しかし、それを心掛けることが大切なのです。

Q37.「自我が弱い」と言われました。「自我」や「自我の確立」って何ですか?


昔の哲学者デカルトは『我思う、ゆえに我あり』と自我とは自分を自分として認識することだと考えました。以降、西洋社会では、「自我」という概念は、哲学のみならず、さまざまな学問の研究対象とされてきただけでなく、一般人の日常生活で使われるようにまでなりました。さて、自我とは何かですが、フロイトによれば、「自我とは外界の現実と接触し適応していくため,エスからの欲求や超自我からの禁止を調整し,心の安定や人格の統合をはかる働きをする」ものだということです。これを噛み砕いて言えば、まわりの友達や家族や学校や会社の人、ときに赤の他人なんかとうまくやっていくために、どうしょうもなくこみあげてきておさえられない感情や、欲望(とくにわがままなものとか)なんかと、これはやっち� ��いけない、さすがにヤバイでしょ、我慢しようなどと自分で思うことの折り合いをつけて、バランスよくコントロールする考えや意識のことを指します。自我とはいわば、「冷静で客観的な大人の心」のようなもので、「自我の確立」とは、手っ取り早く言ってしまえば「大人になること」っていうことです。じゃあ、「大人」って何?と聞かれた場合、いつも安定した心をもって、世の中でそれなりにうまくやっていける人」のことを指すと言っていいでしょう。超自我はいわば世話好き(ある意味おせっかい焼き)でときにお説教くさく厳しい親のようなもので、エスは、(ときにワガママで、ときに依存的で甘えん坊な)未成熟な子どものようなもので、この二人の関係をうまく仲裁したり、仲直りさせたり、妥協させたり、� ��実的に筋が通るように解決していくのが、まさに「自我」の役割です。ですから「自我が脆い」とか「自我が弱い」という場合、この「冷静で客観的な大人の心」が、未成熟な子どもに負けちゃったり、厳しい親にかんじがらめにされて身動きが取れなかったりという状態の事を言うのだと考えるとわかりやすいと思います。精神医学や心理学は西欧社会の個人主義的、合理主義的文化風土からそもそも生まれてきたものなので、「自我が強い=よいこと=目指すべきこと」という図式が欧米人にはすんなり受け入れられてきました。しかし、それらの文化や思想、哲学を和訳して輸入しているだけの、しかも「あうんの呼吸」「つうかあの仲」「以心伝心」「協調性」「和」を「よいこと」としてきた日本では、「自我」とい� ��概念自体が、極めてつかみにくいもの、理解しにくいものになっているのが現状だと思います。しかしながら、日本文化も欧米化してきている昨今では、「自我の確立」は、ある程度避けて通れない課題になっているのだと思います。ちなみに余談ですが、中には「自我、またはより一般的に心・意識は脳の活動に他ならないという立場から、自我とは脳のある特定のメカニズム・はたらきによるものであり、特別な脳部位に局在しているのだ」という唯脳論的な考え方の人もいます。結論としては、自我を確立できるならそれにこしたことはないですが、あまり「自我」という言葉にかたくなにとらわれ過ぎず、柔軟な心と社会性を身につければ十分だと思います。ちなみに、「自分のせいだ」と自分を責める(自罰的)ことと、「あ� �つのせいだ」と他者を責める(他罰的)ことがあるとすると、自我は常に自分も他者も責めない解決法(無罰的)を探します。「人間には波があって当然」とか「気分が不調になる季節なんだ」とか「今日はついていなかったけど明日はついているかもしれない」などと考える訳です。言葉を変えれば、物事を合理的に割り切って生きていく力が「自我の強さ」といえるのかもしれません。

Q38.主治医が話を聞いてくれません。じっくり話を聞いて欲しいのですが...

一般的に精神科医や心療内科医などの医師は、カウンセリング(悩みの相談レベルから、各種心理療法、精神療法まで)の技法、技術の専門知識の教育や訓練を受けていません。もし、じっくり話を聞いてくれる精神科医がいるとしたら1)自主的に良心的な気持ちからそうして下さっている、2)他に診察を待っている患者さんなどが少なく時間的余裕がある、3)独学でカウンセリングの技法を身につけて臨床で応用している、4)医師免許の他に臨床心理士や他のカウンセラー関連の資格を持っている、などと大きく大別できると思います。しかしそれはどちらかというとイレギュラーなケースであって、精神科医や心療内科医などの医師は、身体症状、精神症状の状態やその病態水準(程度が軽いか重いか)、経過と� ��移の客観的な観察、およびそれらに対する適切な薬物の処方といったことをメインに頭の中で考えていますから、「昨日彼と喧嘩して...」「職場の誰々からいじめられて...」「自分は一体誰なのか...」といった相談には、正直なところ無関心な訳ではなく、どう対処していいかわからないといったところが本音だと思います。理由は、先ほど述べた通り、こうした相談事に適切な対応をする訓練を受けていないからです。では、こうした相談事に対する適切な対処法を専門に教育、訓練されているのは一体誰かというと、やはり臨床心理士をはじめとしたカウンセラーです。ただし、注意をしなければならないのは、1)現在日本の法律では自称「カウンセラー」を名乗っても罰せられないので、単に「カウンセラ� ��」と名乗っていても優秀な人から実はほとんど素人同然の人までいるということ、2)臨床心理士は将来的に国家資格になる可能性もある文部科学省認定の資格なので安心できますが、人柄や性格のよさまでを保証するものではないこと、3)臨床心理士、認定心理士、産業カウンセラー、心理療法士、他各種団体の認定カウンセラーなどは確かに相談のプロではあるかもしれませんが、場合によっては家族や友人、知人、まったくの第三者の方が親身にかつ適格なアドバイスをしてくれることもあること、などは覚えておいたほうがいいと思います。ただし、身近な人になればなる程、冷静な客観性が失われ、感情的で主観的な偏ったアドバイスになりやすいことも同時に覚えておいて下さい。以上の理由で、主治医にじっくり話� �聞いてもらいたいのに聞いてもらえないという不満はある程度仕方のないことだと思って、医師は、身体症状、精神症状をメインで診る人、と割り切ったほうがいいと思います。また、通院している病院がカウンセリングを行なっていない病院で、カウンセリングを主体に治療していきたい場合、診療とカウンセリングを同じ病院で行なっているところを、主治医に理由をはっきりと告げて、紹介してもらうか、それがだめなら自分でそうした病院を探し転院をした方が、「話を聞いてくれない信頼できない主治医」と長期にわたって治療関係を続けるより、より治療的かもしれません。

Q39.通院医療費公費負担(精神保健福祉法32条)を申請したいのですが。

2006年4月1日より施行された障害者自立支援法により、通院費やカウンセリング代が5%〜無料ですむようになっていた、これまでの精神保健福祉法第32条に基づく通院医療費公費負担制度は2006年(平成18年4月)から障害者自立支援法に基づく自立支援医療費支給制度に変更されました。障害者自立支援法に基づく新しい利用者負担については、こちら(※東京都の場合)またこちら(※大阪府の場合)をご参考になさって下さい。障害者自立支援法に基づく医療費支給制度についても、精神障害者保健福祉手帳・障害年金などについても、各自治体によって内容、申請方法が異なる場合があるので、まずはお住まいの市区町村の役所の健康福祉関連窓口で詳細はお尋ね下さい。参考:厚生労働省「障害者自立支援法」

Q40.うつ病や境界性人格障害でも入れる保険はありますか?

現在、精神科や心療内科に通っており、薬を飲んでいる場合、一般的な医療保険、生命保険にはほぼ100%入れないと思ってください。理由は自殺などで死亡した際にそれが個人の意思なのか、他者によるものなのか識別が非常に困難だからだそうです。うつ病や境界性人格障害でも入れる(可能性が高い)保険としては、「引受基準緩和型」もしくは「無選択型」と呼ばれる保険があります。「引受基準緩和型」は告知事項が緩やかか、もしくは少ないので、現在通院投薬中の人でも入れる可能性が高いです。ただし、その多くは加入条件が40歳からとなっており、若い患者さんは加入できません。例としては、アフラックの「どなたでも」、アリコの「ずっとスマイル」、AIU保険の「がんばれ!40's」、損保ジャパンひまわり� �「限定告知型医療保険」、アクサ生命の「新安心基準」、太陽生命の「やさしい保険」などです。では、「無選択型」とは何でしょうか?これは、告知が一切必要ない代わりに、保険料が通常の1.5倍ほどになるという保険です。例としては、ソニー生命の「終身保険」、エース損保の「保険貴族」、COOP共済の「たすけあい1000円コース」などです。なお、「引受基準緩和型」の保険で唯一若年齢でも入れる可能性のある保険は、三井生命の「おまかせください」がありますが、かなり割高のようです。なお、ここに列記した保険は2007年10月現在の保険商品の情報で、特定の保険を勧めるものではありませんので、ご注意ください。



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