2012年4月9日月曜日

第3章 糖尿病のコントロールと自己管理


第3章 糖尿病のコントロールと自己管理

    

 


糖尿病コントロールの基本
 血糖値や体重をなるべく正常に近づけて、糖尿病がありながらもからだを健康な状態に保つことを「糖尿病をコントロールする」といいます。うまく糖尿病をコントロールすれば、糖尿病の症状もでませんし合併症も予防することができます。
 糖尿病を引き起こす重要な原因は食べ過ぎ、運動不足、肥満などです。従って糖尿病をコントロールするためには食べ過ぎ、運動不足、肥満をなくすことが是非とも必要になります。食べ過ぎをなくすこと、これが食事療法です。運動不足を解消すること、つまり運動療法です。このふたつがうまくできれば肥満の解消にも役立ちます。食事療法と運動療法は皆様の生活習慣と密接にかかわっています。食事療法とは食生活のスタイルを健康的なものに変えていき、毎日それを実践することです。運動も生活習慣の中に取り入れて続けなければなりません。自分で健康的な生活習慣を作って自分の意思で維持していくこと、これが糖尿病をコントロールするための基本です。

自己管理
 糖尿病治療の三本の柱は食事療法、運動療法と薬物療法であると言われます。他の多くの病気と同じように薬の力を借りなければうまくコントロールできない場合もあります。しかし、薬を使う時にも食事と運動を自分で管理し続けることは欠かせません。自分で毎日の生活を管理することによって初めて糖尿病をうまくコントロールすることができるわけです。
 そして、うまくコントロールできているかどうか自分自身で確認します。例えば体重が増えてないかどうかは家庭でも知ることができますし、運動不足でないかどうかは万歩計などで知ることができます。血糖値を自分で測定することもやろうと思えばできるのです。そして自分で確認したことはなるべく記録に残します。病院で検査した結果も書き込むといいでしょう。この記録を見れば今までのコントロールが良かったかどうかすぐ判るのですから、これを明日からのコントロールに役立てることができます。このように自分自身で糖尿病をコントロールすることを自己管理といいます。

糖尿病コントロールの目標
 自己管理によって糖尿病をコントロールしていく最終目的は合併症を予防することにあります。合併症なんて何年も先の問題でひとごとのように思っている人もあるかも知れません。しかし本当のゴールは合併症の予防です。
糖尿病をコントロールするためには、さしあたっての目標をいくつか決めておく必要があります。まずは体重です。目標とする体重を計算する方法はいくつかありますが、ここではBMIから求める方法を紹介します。体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)で求められる値を体格指数 (BMI)といいます。この値が 22 になるような身長と体重の組合せが最も健康に良いことから、身長(m)×身長(m) × 22で目標とする標準体重(kg)が求められます。
また同じBMIでも内臓脂肪(おなかについた脂肪)が多い人のほうが糖尿病、高脂血症や高血圧症になりやすいことが知られています。内臓脂肪が多いかどうかはウエスト周囲径(腹囲)で推測できます。男性ではウエスト周囲径は85cm未満、女性では90cm未満を目標とします。
次に決めておく目標は血糖値とHbA1cです。一般的な目標はHbA1c 6.5 %未満、空腹時血糖 130 mg/dl未満、食後2時間血糖 180 mg/dl未満です。尿糖検査もコントロールを評価する目安になります。朝食前は尿糖陰性が目標、食後の尿検査では陰性から弱陽性が目標です。

      血糖コントロールの指標

 


何が悪い根管とは
血糖値 (mg/dl)
HbA1c (%)
空腹時
食後2時間

優    

110未満
140未満
5.8未満

良    

130未満
180未満
6.5未満

可(不十分)    

160未満
220未満
7.0未満

可(不良)

160未満
220未満
8.0未満

不可    

160以上
220以上
8.0以上

血圧と血清脂質のコントロール

1)

血圧のコントロール

  

高血圧症は動脈硬化の危険因子であるばかりか糖尿病の合併症の発症にも関わります。一般的には収縮期血圧130 mmHg未満、拡張期血圧 80 mmHg未満を目標にします。血圧が高い場合は糖尿病の食事療法に加えて塩分を控えて下さい。血圧を下げる薬(降圧薬)には多くの種類がありますが、アンギオテンシン受容体阻害薬、アンギオテンシン変換酵素阻害薬、カルシウム拮抗薬、α遮断薬などがよく用いられます。

2)

血清脂質のコントロール

  

高脂血症も糖尿病や高血圧症と並ぶ動脈硬化の危険因子です。中性脂肪の値は食後には高くなりますので、朝食をとる前に採血して総コレステロール、HDL-コレステロール、中性脂肪を測定します。コレステロールには善玉コレステロールと悪玉コレステロールがあります。 HDL-コレステロールが善玉に相当します。悪玉は正確にはLDL-コレステロールといい、総コレステロール- (HDL-コレステロール+中性脂肪/5)の計算式で求めることができます。目標は総コレステロール200 mg/dl未満、LDL-コレステロール 120 mg/dl未満、中性脂肪150 mg/dl未満、HDL-コレステロール 40 mg/dl以上です。

  

糖尿病の食事療法に加えてコレステロールの制限や薬物治療を行います。コレステロールが高い場合はスタチンとよばれる薬剤が有効です。中性脂肪だけが高い場合は食事療法と減量が最も有効ですが、フィブラートという薬剤を使うこともあります。

尿糖自己測定
 血糖値が約160〜180 mg/dlを越えると尿に糖が排泄されます。尿中の糖を測定すると、およその血糖の状態を知ることができます。ただし、尿に糖が出ていない時は血糖が正常なのか低いのかの区別はできません。また、かんきつ類を多く食べた時やビタミン剤を内服した時などは尿に排泄されるビタミンCが尿糖の測定に影響しますので、実際には尿糖が出ているのに測定では陰性になることがあります。
 朝食前に調べる時は起床直後に一度排尿し朝食直前の尿について測定します。朝食後2時間で調べる時は食事の前に予め排尿しておいて下さい。


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血糖自己測定 (SMBG)

1)

SMBGの意義

  

より良い血糖コントロールを安全に達成するため自分で血糖を測定することができます。これを血糖自己測定 (SMBG) といいます。妊娠合併糖尿病、1型糖尿病、血糖値が不安定な糖尿病、インスリン治療を行っている2型糖尿病、低血糖の自覚症状がない場合などは血糖自己測定が必要です。測定結果は日付、測定した時間とともにきちんと記録しておきます。食事や薬の量が適切かどうか判断するための貴重なデータになります。

2)

SMBGの方法

  

ここでは一般的な測定方法を記載しますが機種により少し異なる点があります。実際に測定する時は使用する測定器に添付されている説明書に従って測定して下さい。 

必要なもの:

血糖測定器
使い捨て血糖測定センサー
採血器具と使い捨て採血針
消毒綿
記録用ノート

方法:

(1)

手を石鹸でよく洗い充分に乾燥させます。

(2)

消毒綿で穿刺部位を消毒し充分に乾燥させます。

(3)

採血器具に針をセットします。

(4)

血糖測定器に使い捨て血糖測定センサーをセットします。

(5)

セットした採血針を指先の側面に押しあてプッシュボタンを押して採血します。

(6)

セットした使い捨て血糖測定センサーに血液を吸い取らせます。

(7)

血糖値が表示されます。

(8)

血糖測定センサー、採血針を取り外し、廃棄用容器に捨てます。
(使用済のチップや針は病院に持ってきていただければ、病院でまとめて処分します。)

(9)

測定結果をノートに記録します。

  

糖尿病の食事療法に加えてコレステロールの制限や薬物治療を行います。コレステロールが高い場合はスタチンとよばれる薬剤が有効です。中性脂肪だけが高い場合は食事療法と減量が最も有効ですが、フィブラートという薬剤を使うこともあります。

日常生活の注意

1)

口腔内の清潔

  


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歯磨をきちんとしましょう。血糖コントロールが悪いと虫歯も治りにくく、歯槽膿漏になりやすいものです。本当に悪くなったらしっかり噛めなくなります。しっかり噛めないと満腹感が得られずつい食べ過ぎてしまう事もあります。また、噛めないと唾液も出なくなり口の中が不潔になりますのでしっかり歯を磨きましょう。歯ブラシを選ぶときは幅が前歯2本分ぐらいのものを選びます。子供用など小さな歯ブラシの方がすみずみまで磨けます。虫歯や歯肉の異常は早めに治療して下さい。歯科医の治療を受ける時は糖尿病手帳を見てもらうようにします。

2)

足の清潔と傷の予防

  

足、特に指の間は不潔になりやすいところですので、入浴時にきれいに洗います。入浴できない日も足は洗いましょう。白癬(水虫)があれば徹底的に治療して下さい。また、足の傷は壊疽や潰瘍のもとになります。毎日足を丹念に観察して下さい。小さな傷やできものでも正しい処置を受けて下さい。足のけがや靴ずれの予防のためにソックスを必ずはくこと、足に合った靴をはくことなどに注意して下さい。げたや草履など同じ場所を圧迫する履物は良くありません。

3)

爪切り

  

爪を切りすぎないようにして下さい。爪のまわりのけがをしないために、普通の爪切りではなく爪用のはさみややすりを使うと良いでしょう。

4)

皮膚の清潔

  

皮膚の清潔を保つために木綿などの汗をよく吸う下着を使い、毎日着替えて下さい。おできや虫刺され、掻き傷なども早めの適切な処置が望まれます。血糖コントロールが悪いと小さな傷も治り難く化膿しやすいからです。灸は皮膚に傷を作りますし、血糖コントロールを悪くする場合がありますのでするべきではありません。寒い時期にカイロ、湯たんぽ、こたつを使う時には火傷に充分気をつけて下さい。低温火傷といって、そんなに熱くなくても長時間皮膚に接していると火傷することがあります。特に糖尿病性神経障害がある人は湯たんぽ、こたつなどは絶対に使ってはいけません。

5)

入浴

  

毎日入浴して身体の清潔を保つことは良いことです。しかし、インスリン注射やスルホニルウレア薬を使っている人は夕食前などの低血糖を起こしやすい時間の入浴は避けるべきです。食事の直後も好ましくありません。また、熱い風呂に長時間入ると血糖が高くなることがあります。寝る直前の熱い風呂は不眠の原因になります。

6)

喫煙

  

喫煙は動脈硬化や糖尿病の合併症を進めるばかりか種々の癌の発生にも関わるなど健康に悪いことがよく知られています。たばこを吸う人は今すぐ止めなければいけません。


自己管理に関連して

1)

シックデイ

  

風邪、発熱、下痢などで一時的に体調の悪い時をシックデイといいます。こんな時は食欲もなくいつもの食事がとれないかもしれません。食べられそうなものを少しずつ何回にも分けて摂って下さい。食事をとらなくても血糖が高くなることがあります。インスリン注射を使っている人では食べないからといってインスリン注射を中断するとケトアシドーシスを起こす可能性があります。特に1型糖尿病の人は絶対にインスリン注射を中断してはいけません。主治医に連絡してインスリン注射の量などを相談して下さい。運動は体調が良くなるまで休みます。

2)

民間療法

  


「これを飲めば糖尿病が治る」といったような話しがたくさんあります。しかし、糖尿病コントロールの基本である食事療法、運動療法、薬物療法を離れて安易にうまい話に飛びつくのはとても危険です。手を抜いて糖尿病を良くする方法は残念ながらありません。極端な絶食や半飢餓療法、科学的な根拠のない治療法は危険を伴います。病院で行われていない治療にどうしても興味がある人は、自分の判断だけで実行せず必ず主治医に相談して下さい。

3)

糖尿病手帳

  

糖尿病手帳には糖尿病であることや治療の内容、薬の名前、血糖コントロールの状態、主治医の連絡先などが記入されています。外出時、旅行中、他の病院を受診する時は必ず身につけておいて下さい。不慮の事故があった時や外出先で低血糖を起こした時など、糖尿病手帳があれば有利です。海外旅行をする時は英語で書かれた糖尿病カードを準備します。

4)

定期の診察

  

糖尿病のコントロールには日頃の自己管理が大切ですが、定期的に病院を受診することも必要です。体重、血圧、血糖の測定結果など自己管理の記録があれば忘れずに持って来て下さい。診察日の朝食を抜くかどうかは前もって決めておきます。朝絶食の場合は基本的には朝の薬も休みます。

5)

糖尿病教室と栄養相談

  

正しい方法で糖尿病を自己管理し良好なコントロールを維持するためには糖尿病について知ることが大切です。糖尿病教室などを利用して糖尿病とのつきあい方を知って下さい。また、ひととおり糖尿病について勉強し終わってもそれで安心しないで下さい。一度覚えたことも時間がたてば忘れます。毎日の食事も少しずつ油断が出るかもしれません。医学の進歩により新しいことが判るかもしれません。糖尿病教室や栄養相談は繰り返して参加するとさらに効果があがります。

6)

妊娠に関して

  

糖尿病のコントロールをしながら妊娠をご希望の方は主治医にご相談下さい。条件がそろえば糖尿病をきちんとコントロールしながら元気な赤ちゃんを生むことはできますが計画妊娠が必要です。血糖値が高いまま妊娠すると流産や胎児奇形の危険性が高くなります。
 一般に主治医が妊娠を許可する基準として、血糖値が1日を通じて正常範囲にある、前増殖性網膜症や増殖性網膜症がない、腎機能がほぼ正常(クレアチニンクリアランスが70 ml/分以上)、尿たんぱくは陰性か1日1グラム以下などをすべて満たすことです。妊娠中の血糖コントロールには内服薬は向きませんので薬が必要な場合はインスリン注射を用います。妊娠期間を通じて安全に厳格な血糖コントロールを維持するために血糖自己測定(SMBG)も欠かせません。従って、SMBGの手技も含めて糖尿病の自己管理が正しく行える技術と知識を身につけて、良好な血糖コントロールが達成され主治医の許可が出るまでは妊娠を避けなければなりません。


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